今月の一言
2023年2月のひとこと
作家の高橋源一郎さんはご自身の著書「高橋源一郎の飛ぶ教室 -はじまりのことば」の中で、ロックバンド銀杏BOYZのボーカルである峯田和伸さんの言葉を引用しつつ、次のように述べています。
〈前略〉 「世の中で何かが起こった。さっぱり関係ないはずなのに、『私はこう思う』とか、世界とすごくくっついちゃってさ。本来、自分と世界なんて違うじゃん。別に関係ないんだもん。世界と一個になろうとしてるんだよね。世界と一個になんかなれないよ、そんなの」。そんな峯田さんの気持ちをひとことでいいあらわすことば。それを、インタビュアーが思い出させます。去年の武道館での銀杏BOYZの公演のタイトルでした。
「世界がひとつになりませんように」
いいことばだ、と思いました。峯田さんはいいます。
「ネットってさ、最初のころはすごい楽しみで『あっ、世界が近くなる』『もっとわからない世界が知れるようになる』ってワクワクしたんだけど。今はそんなにワクワクしない。広がると思ったのに、どんどん狭くなっちゃって」と。
バラバラだからおもしろい。バラバラだから、広い。ひとつの意見、ひとつの考えになった瞬間に、その世界は狭く、息苦しいものになってゆきます。
だから、「世界がひとつになりませんように」。
「高橋源一郎の飛ぶ教室 ―はじまりのことば」 高橋源一郎著
岩波新書 2022年11月
他者との繋がりの中で生きて(生かされて)いる我々が、「世界がひとつになりませんように」や「バラバラだからおもしろい。バラバラだから、広い。」と思える感性を持つことは、我々が何かに縛られることなく常に自由でいるためにはとても大切なことだと思います。
息苦しい世の中にしないために、「世界がひとつになる」ということの中には「危うさ」も存在するということを、我々は常に心に留めておかなければならない、と強く感じています。