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今月の一言

2023年5月のひとこと

 神戸女学院大学名誉教授で凱風館館長をされている内田樹氏は、ご自身の著書の中で「見通しのきかない時代をなんとか生きていくために若い人たちに必要なもの」を以下のように述べられています。

社会がこれからどうなるのか、過去の経験に基づいて予測することは、きわめて困難です。そうした予測不能の社会に若い人たちを送り出していかなくてはならない。彼らをどんなふうに支援し、どんな能力を身につけてもらえば生き延びていけるようになるのか。それが教育者の喫緊の課題だと思います。

それはやはり「直感を鍛える」ことだと思います。僕らが未来の社会を正確には予測できない以上、彼ら自身に行き先を選んでもらうしかない。だからこそ、正しい方向を見極める力を養う必要がある。

「正しい方向」ってあるんですよ。僕のスキーの先生が以前とてもおもしろいことを言っていました。「スキー板の『正しい位置』に乗るのが大切です」と先生が言われたので、僕はつい「先生、正しい位置ってどこですか?」と訊いてしまったんですけれど、その時に先生が「いつでも正しい位置に戻れる位置です」と言われた。「なるほど」と思いました。「正しい位置」というのは固定的な点ではない。その通りです。スキーでは気温や斜度や日照角度などによって雪面の状態は刻々と変わります。こういうラインで滑ると決めていても、必ず予想外の変数が入り込んできて、当初のプランを変えて対応せざるを得ない。ですから「スキー板の上の正しい位置」とは、「今ある選択肢の中で最も自由度の高いところ、最も次の選択肢の多いところ」だということになります。そういうポジションに立っていvれば、連続的に変化する状況に対応して、そのつど「正しい位置」を選択することができる。つまり、「正しい位置」というのは、事前にはわからないけれど、事後的に、難局を切り抜けた後になって、「あの時は正しい位置にいた」とわかるというものなんですね。

君たちのための自由論 ゲリラ的学びのすすめ』 内田樹/ウスビ・サコ著
中公新書ラクレ 2023年2月 

現在の若者たちが先の読めない世の中を力強く生き抜くためには、「正しい方向を見極める力を養う必要がある」とありますが、私もまさにその通りだと感じています。そしてどの方向に進むべきかを決める際に、自分の持つ選択肢の数が多ければ多いほど正しい方向に進むことができる可能性が高まるということは誰もが認めるところだと思います。もちろんどの選択肢を選んでもうまくいかないこと(自分の選択肢の中には正解がないということ)もありますので、実生活の中で選択肢の数を増やす努力をすることが大切です。「自分にはこれだけの選択肢がある」、他の言葉で表現するならば「自分にはこれだけの経験がある」という前提があれば、この先に何があるのかが分からない状態でも、自信をもって最初の一歩を踏み出すことができるはずです。

学校の役割はたくさんありますが、「様々なことを経験する機会を生徒諸君に提供すること」すなわち「選択肢の数を増やすお手伝いをすること」が今後はますます大きな意味を持つようになると私自身は感じています。