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今月の一言

2023年8月のひとこと

ある学生が、通学に便利な原付バイクが壊れてしまったために、仕方なしに徒歩で下宿から研究室にやってきました。いつもより時間がかかったので、原付の便利さを痛感したそうです。ところがその日の帰り道、原付の時には目に入らなかったカフェを発見しました。なかなか良さそうな雰囲気です。ちょうどお腹も空いてきました。気になって、フラっと入ってみたら、味も量も好みで、しかも値段も良心的だったそうです。嬉しそうに、お気に入りのカフェが一つ増えたと言っていました。

この事態をちょっと抽象化すると、通学路という連続をたどらねばならず、それに手間がかかるという不便は、気づき(おや、カフェがある)の機会を増やしてくれて、何か試してみる(フラっと入ってみる)ことを後押ししてくれます。

途中をすっ飛ばせるのは便利です。紙の辞書より電子辞書が便利なのも、すっ飛ばせるからです。ペラペラとページをめくって連続をたどる必要はありません。同じように通学も、通学路の途中をすっ飛ばせれば(究極的には「どこでもドア」が使えれば)一見すると便利です。でも、お気に入りのカフェを見つけるチャンスは、絶対にありません。

『不便益のススメ -新しいデザインを求めて』 
川上浩司著 岩波ジュニア新書 2019年2月

 現在、生徒諸君は夏休みの真っただ中です。普段より自由になる時間は増えているかもしれませんが、クラブ活動や宿題などやりたいことや、やらなければならないことが沢山あり、普段と変わらず忙しい毎日を送っている生徒諸君も多いのではないでしょうか。

 ただ、効率性を求め、それゆえ便利なことが当たり前となり、不便なことを極力避ける生活をしている我々だからこそ、夏休みくらいは不便なことを敢えて受け入れてみるのもいいのではないかと思います。生徒諸君には、特に受験生である高校3年生には、調べたい単語があった場合、それを探すためにページをめくるついでに、「辞書の中で道草を食う」くらいの心の余裕を持ってもらえたらなと思います。「不便を楽しむ」ことにより、新たな発見と出会えるかもしれません。